はじめに:2026年は「デジタル歯科が当たり前になる元年」
2026年は、歯科医療におけるデジタル技術が一部の先進的な医院だけのものから、一般開業医にとっても避けて通れない標準的な選択肢へと移行する転換点になると予測されています。
私は、昨年末まで3Shapeのプロダクト戦略担当シニアバイスプレジデントとして世界のデジタル歯科を牽引してきた Rune Fisker(ルーン・フィスカー)氏 と長年親交があります。彼は3Shape創業初期からデジタル歯科の進化を現場で統率してきたキーパーソンであり、その洞察と予測は世界中の歯科界から高い信頼を集めています。

実際、シカゴ・ミッドウインターミーティングをはじめとする主要国際学会では、彼の講演は常に満席となり、臨床家・メーカー双方から高く評価されています。
本記事では、Rune氏が語る将来像をもとに、2026年に歯科で何が起こるのかを、日本の一般開業医の視点で、できるだけ臨床イメージに落とし込みながら解説します。
2026年の歯科を形作る5つの大きなトレンド
2026年に向けて加速するとされているのは、次の5つの流れです。
- AI(人工知能)の本格的な臨床・業務導入
- 生成AIの「日常業務ツール化」
- 口腔内スキャナ(IOS)の標準治療化
- 3Dプリンティングの急速な普及
- 歯科システムの“非連携”からの脱却(ハイパー・コネクト)
以下、それぞれを詳しく見ていきます。
① クリニックに「AIスタッフ」が入ってくる時代
AIエージェントとは何か
2026年に現実味を帯びてくるのが、AIエージェント(AIスタッフ)の存在です。これは単なるチャットボットではなく、
- 会話内容を理解し
- 状況に応じて判断し
- 必要な処理を自動で実行する
という、人間のスタッフに近い役割を担うAIを指します。
AIが担う具体的な業務
① 問い合わせ・予約対応
患者さんがLINEやWebチャットで「歯が痛い」「いつ予約できるか」「保険診療か」などと質問した際、AIが問診的な質問を行いながら、トリアージと予約候補の提示まで対応します。
② 予約・キャンセルの自動処理
患者さんとのやり取りを通じて空き枠を自動検索し、予約システムへ直接反映。スタッフが電話対応に追われる時間を大幅に減らすことが可能です。
③ 音声認識によるカルテ記載補助
診療中に「#26 生活歯髄切断、MTA使用、ラバーダム使用」などと口頭で話すと、AIが自動で文字起こしし、カルテの仮入力を行います。術後に確認・修正することで入力負担を軽減できます。
日本の一般開業医にとっての意味
- 深刻な人手不足への対策
- スタッフの残業削減
- チェアサイド業務への集中
すべてを一度に導入する必要はなく、問診入力やWeb予約の裏側処理など、リスクの低い部分から段階的に導入することが現実的です。
② 生成AIが「毎日の仕事道具」になる
生成AIとは
生成AIとは、文章・画像・動画などを自動生成するAIのことです。歯科分野ではすでに、診断補助・治療計画・患者説明へと応用が始まっています。
診断・治療計画への活用
- X線AI診断:う蝕、根尖病変、骨吸収を自動検出し、見落とし防止に寄与
- IOSデータのAI解析:う蝕疑い、マージン不適合、咬合干渉を自動抽出
- CBCTのAI補助診断:根管形態、下顎管・上顎洞との位置関係を自動解析
いずれも「最終判断は歯科医師」という前提で、安全性を高めるセーフティネットとして位置づけられています。
補綴・審美領域での進化
- AI CAD:クラウン・インレー・義歯・アライナー設計の半自動化
- スマイルデザインの高度化:静止画だけでなく、会話・笑顔を含めた動画シミュレーション
インフォームドコンセントの質が大きく向上する点も重要です。
③ 口腔内スキャナ(IOS)が標準治療へ
世界で進むIOSの普及
アメリカや北欧では、口腔内スキャナの普及率がすでに60%超に達しており、現代歯科の標準的ツールになりつつあります。
2025年には、3Shape TRIOSだけで年間3,500万症例以上がスキャンされ、約0.8秒に1人のペースで利用されています。
IOSが支持される理由
- シリコン印象不要による患者負担軽減
- 印象採得の再現性向上
- データの再利用性(補綴・インプラント・矯正・経過観察)
応用は「印象採得」にとどまらない
- All-on-Xなどフルアーチインプラント
- 年単位での歯列・咬耗変化の可視化
- 患者自身が3Dデータを確認できる環境
診断・説明・予防を支える基盤データとしての価値が高まっています。
④ 3Dプリンティングの爆発的普及
2024年には、アメリカの歯科医院内に設置された3Dプリンタ台数がミリングマシンを上回ったと報告されています。
なぜ3Dプリンタが増えているのか
- 模型、サージカルガイド、スプリント、暫間補綴まで幅広い用途
- 材料進化による強度・審美性・生体適合性の向上
- スピードと再現性の高さ
最終補綴への展開が次の焦点
Rune氏は、「最終クラウンの品質が臨床レベルに達するかが、本当の普及の鍵」と指摘しています。
SprintRay Midasなど、3Dプリントクラウンの質を大きく向上させる機器も登場し、2026年に向けて流れは加速すると考えられます。
⑤ 「つながらない歯科システム」からの脱却
現在の歯科ITの課題
- 予約ソフト
- レセコン/PMS
- IOS、CAD/CAM、3Dプリンタ
- X線・CTソフト
これらがバラバラに存在し、手作業でデータを移動している医院が多いのが現状です。
ハイパー・コネクトへの流れ
- メーカーによるオープンAPI提供
- クラウドベースのエコシステム構築
- データ一元管理によるワークフロー統合
Rune氏は「この“つながり”が整わなければ、デジタル歯科は本当の意味で主流にならない」と述べています。
デジタルが苦手な歯科医師が取るべき現実的アプローチ
- すべてを一気に導入しない
IOSや3Dプリントなど、相性の良い分野から始める - AIを人手不足対策として考える
受付・予約・カルテ入力など裏方業務から導入 - データ再利用を前提に考える
単発ではなくワークフロー全体での価値を見る - 連携しやすさを重視する
将来の拡張性を見据えた機器選定を行う
まとめ:2026年は「小さな一歩」を踏み出す年
2026年の歯科トレンドは、突然すべてが変わるという話ではありません。数年単位で進む流れの中で、「今、どこから一歩踏み出すか」を決めることが重要です。
自院の診療内容、スタッフ構成、患者層を踏まえながら、無理のない形でデジタル歯科と向き合うことが、これからの時代における現実的な選択と言えるでしょう。







