歯を残した後に考えたい「歯にかかる力」のこと
破折した歯を治療して残すことができた。それは大切な第一歩です。
しかし、いばた歯科では、そこで治療がすべて終わったとは考えていません。
次に考えたいのが、「なぜ、この歯は割れたのだろう?」ということです。
歯の破折にはさまざまな原因が関係します。その中には、歯ぎしりや食いしばり、噛み合わせ、歯の位置など、歯に加わる「力」の問題もあります。
そこで当院では、破折した歯だけを見るのではなく、お口全体を診査し、必要な場合にはマウスピース矯正を含めた方法で、歯に加わる力を考えていきます。
目次
- 01|歯は、なぜ割れるのでしょうか?
- 02|私たちが注目する「力の集中」
- 03|必要な範囲の矯正 ― 奥歯は動かしません
- 04|すべての破折歯に矯正が必要なわけではありません
- 05|「理想的に並べる」ことが目的ではない理由
- 06|なぜマウスピース矯正なのか
- 07|治療の流れ
- 08|矯正が終わってからが大切です
- 09|適している方・適していない方
- 10|治療期間・通院・費用
- 11|リスク・注意点
- 12|よくあるご質問
01|歯は、なぜ割れるのでしょうか?
【画像:図解① 破折は「一つの原因」で起こるのではない/中央に「歯の破折」、周囲に 歯そのものの状態・大きな詰め物や被せ物・神経を取った歯・残っている歯質の量・歯ぎしりや食いしばり・歯並びや噛み合わせ・繰り返し加わる力 を配置】
歯の破折は「多くの要因」が重なって起こります。
「歯並びが悪いから歯が割れた」と単純に考えることはできません。
歯の状態、これまで受けてきた治療、噛み合わせ、日常的に加わっている力などを総合的に考える必要があります。
だからこそ、破折した歯を治療した後に、「この患者さんの場合、何が破折に関係していたのだろう?」と考えることが大切になります。
02|私たちが注目する「力の集中」
【画像:図解② 力の集中/BEFORE 正常に近い歯列は複数の歯で力を受ける / 歯の位置や噛み合わせに問題があると特定の歯に力が集中する】
歯は、食事のときだけ力を受けているわけではありません。無意識の食いしばりや、睡眠中の歯ぎしりなどによっても力を受けます。
歯の位置や噛み合わせによっては、その力が一部の歯に集中している場合があります。
一度歯を破折された患者さんでは、治療した一本だけでなく、ほかの歯にも同じような負担がかかっていないかを確認することが大切だと考えています。
03|そこで考える「必要な範囲の矯正」― 奥歯は動かしません
【画像:図解③ BEFORE 歯の位置・傾きに問題があり一部の歯に負担が集中 → 必要な歯を必要な範囲で移動(マウスピース)→ AFTER 整えた歯列で、一部の歯だけに負担が集中しにくい状態を目指す】
当院が破折歯を経験された患者さんにマウスピース矯正をご提案することがあるのは、単に前歯をきれいに並べるためではありません。
歯並び・噛み合わせを診査して、歯の位置を整えることに意味があると判断した場合に、「必要な歯を、必要な範囲で動かす」という考え方で治療を検討します。
当院では、噛み合わせの中心的な役割を担う奥歯(大臼歯)は動かさず、前歯を中心とした範囲に限定して歯の位置を整えています。 大臼歯を大きく動かすことは、顎関節へ想定外の負担をかけるリスクがあるためです。対象範囲を限定することで、通院負担の少ない短期間の治療が可能になります(治療期間については10章で詳しく解説します)。
04|すべての破折歯に矯正が必要なわけではありません
【画像:図解④ 診査・診断/破折歯を経験した → お口全体を診査 → 歯列・噛み合わせの改善が必要なら矯正を検討/矯正する必要性が低ければ経過観察・他の方法】
マウスピース矯正は、破折歯を経験されたすべての患者さんに必要な治療ではありません。
治療前に、次のような点を確認します。
- 現在の歯並び
- 上下の噛み合わせ
- 破折した歯と周囲の歯
- 歯周組織
- 過去の修復・補綴治療
- 歯ぎしり、食いしばり
- 顎関節
- 患者さんの年齢や希望
そのうえで、歯を移動することにメリットがあると判断した場合に治療をご提案します。
05|「すべてを理想的に並べる」ことが目的ではありません
【画像:図解⑤ 一般的にイメージされる矯正は「歯並びをきれいにしたい」=審美性の改善/破折歯治療後に当院が考える矯正は「歯にかかっている力を考える」→ 必要な範囲で歯の位置を整える → 残っている歯を長く使える口腔内環境を目指す】
もちろん、治療によって前歯が整い、見た目の改善につながることもあります。しかし、それだけが目的ではありません。
特に成人では、すでに被せ物や詰め物、インプラントなどが入っていることもあります。そのため、すべての歯を大きく動かすのではなく、噛み合わせの要となる奥歯は動かさずに残し、現在のお口の状態を尊重しながら、どこまで動かすことが適切なのかを慎重に判断します。
06|なぜマウスピース矯正なのでしょうか?
【画像:図解⑥ 透明なマウスピース → 必要な範囲の歯を移動/取り外しができる/歯磨きがしやすい/装着する生活に慣れる】
マウスピース矯正は、透明な装置を一定期間ごとに交換しながら、少しずつ歯を移動させる矯正方法です。
取り外すことができるため、食事や歯磨きは通常に近い状態で行うことができます。
一方で、患者さんご自身が決められた時間きちんと装着することが非常に重要です。装着時間が不足すると、計画した位置まで歯が移動しないことがあります。
装着が「自然な習慣」になる治療でもあります
マウスピース矯正では、1日約22時間・3〜6か月にわたって装着を続ける必要があります。この期間を通じて、装着すること自体が生活の一部として自然に身についていきます。
夜間のみのナイトガードでは「なかなか装着に慣れない」「つい外してしまう」という患者さんも少なくありませんが、日中も含めて装着する矯正の過程を経ることで、無理なく装着の習慣が定着しやすくなります。
上下同時装着による力の分散
当院のマウスピース矯正では、薄いマウスピースを上下同時に装着します。これにより噛み合う面全体で力を受け止める形になり、特定の一点に力が集中しにくい状態をつくることができます。この「力を分散させる」という考え方は、当院が破折歯治療後の患者さんに矯正をご提案する目的(02章)とも一致しています。
07|矯正中はどのように進むのでしょうか?
【画像:図解⑦ 治療の流れ/STEP1 診査・診断 → STEP2 治療計画 → STEP3 マウスピース矯正開始 → STEP4 定期チェック → STEP5 矯正終了・保定へ】
- STEP1 診査・診断:口腔内診査、口腔内スキャン、写真撮影、必要な画像診断、噛み合わせの確認
- STEP2 治療計画:どの歯を、どの方向へ、どの程度動かすのかを検討
- STEP3 マウスピース矯正開始:決められた装着時間を守りながら順番に交換
- STEP4 定期チェック:歯の動き、噛み合わせ、歯肉・歯周組織、マウスピースの適合を確認
- STEP5 矯正終了・保定へ:整えた歯列を維持するため、夜間を中心に保定装置を使用
08|矯正が終わってからが大切です
【画像:図解⑧ 矯正中(日中+夜間装着)→ 矯正終了 → 保定期間(就寝時を中心に保定装置)→ 定期的なメインテナンス → 歯列・噛み合わせ・歯の状態を継続して確認】
矯正治療によって動かした歯には、元の位置へ戻ろうとする「後戻り」があります。そのため、矯正終了後の保定は非常に重要です。
矯正期間中に装着する習慣が身についていることに加え、時間とお金をかけて整えた歯並びを「元の状態に戻したくない」というお気持ちも、保定装置を継続して装着するための後押しになります。この心理的な後押しも、矯正を経験された方が保定・ナイトガードを続けやすい理由の一つです。
また、破折歯を経験された患者さんでは、歯列を維持するだけでなく、噛み合わせや歯ぎしり・食いしばりなどについても継続して確認していきます。
※矯正後の保定装置と、歯ぎしり・食いしばりに対応するためのマウスピースは、目的や設計が異なります。必要に応じて患者さんに適した方法をご提案します。
09|マウスピース矯正が適している方・適していない方
【画像:図解⑨ 左右比較/検討できるケースと、他の方法を検討することがあるケース】
検討できるケース
- 軽度〜中等度の歯列不正
- 一部の歯の傾きや位置に問題がある
- 歯の重なりがある
- 必要な装着時間を守ることができる
- 歯周組織が矯正治療に耐えられる状態にある
他の方法を検討することがあるケース
- 大きな骨格的問題がある
- 非常に大きな歯の移動が必要
- 奥歯(大臼歯)の移動が必要なケース
- 重度の歯周病がある
- 矯正前に虫歯や歯周病の治療が必要
- マウスピースの装着時間を確保することが難しい
適応は患者さんによって異なります。「マウスピース矯正ができるか」ではなく、「この患者さんにとって、歯を動かすことに意味があるのか」を診断することを大切にしています。
10|治療期間・通院・費用について
【画像:図解⑩ カレンダー/診査・診断 → マウスピース矯正 → 保定期間(治療後も継続)】
治療期間
前歯を中心とした必要な範囲のみを動かすため、標準的な治療期間は3か月〜6か月程度です。症例により長期化する場合でも、目安として約9か月程度で終了します(奥歯を動かす全顎的な矯正は行っていないため、それ以上の長期化は想定していません)。
通院回数
標準的な通院回数:5回〜9回程度
費用
- マウスピース矯正:385,000円〜770,000円(税込)
- 診査・診断料:33,000円(税込)
- 保定装置:33,000円(税込)
- 経過観察料金(一月):6,600円(税込)
※追加のマウスピース製作や保定装置の再製作などで別途費用が必要になる場合には、事前にご説明します。
※実際の治療期間・通院回数・費用は、歯並び、噛み合わせ、治療範囲などによって異なります。診査・診断後に治療計画と総額の目安をご説明します。
11|マウスピース矯正のリスク・注意点
【画像:図解⑪ 中央に「マウスピース矯正」、周囲に 痛み・違和感/歯根吸収/歯肉退縮/虫歯・歯周病/計画どおり動かない場合/後戻り を配置】
矯正治療には次のようなリスク・注意点があります。
- 歯が動く際に痛みや違和感を感じることがあります。
- 歯の移動に伴って歯根吸収が生じることがあります。
- 歯肉が下がる(歯肉退縮)ことがあります。
- 清掃状態によっては虫歯や歯周病のリスクが高くなります。
- 計画どおりに歯が動かず、追加のマウスピースや治療計画の変更が必要になる場合があります。
- 治療後に保定装置を適切に使用しないと、歯並びが後戻りすることがあります。
- 治療中、一時的に発音しにくさや違和感を感じることがあります。
- 歯や歯周組織の状態によっては、治療計画の変更や中止が必要になる場合があります。
マウスピース矯正でも歯根吸収が生じる可能性があるため、必要に応じて歯根や歯周組織の状態を確認しながら治療を進めます。
12|よくあるご質問
Q1 歯が割れた人は、全員矯正した方がよいのでしょうか?
いいえ。破折の原因は一つではありません。歯並びや噛み合わせを改善することに意味があると判断した場合に、選択肢の一つとしてご提案します。
Q2 マウスピース矯正をすれば、もう歯は割れませんか?
いいえ。マウスピース矯正によって、将来の歯の破折を完全に予防できるわけではありません。歯の破折には、歯質、過去の治療、歯ぎしり、食いしばり、噛み合わせなど複数の要因が関係します。当院では、その中で改善できる要因がないかを考えます。
Q3 見た目をきれいにする矯正とは違うのでしょうか?
治療によって歯並びが整い、見た目が改善することもあります。しかし、破折歯を経験された患者さんでは、審美性だけでなく、歯の位置や噛み合わせ、歯に加わる力を考えて治療計画を立てます。
Q4 奥歯も全部動かすのですか?
いいえ。当院では奥歯(大臼歯)は動かさず、前歯を中心とした必要な範囲のみを整えます。顎関節への負担を避け、短期間で終える方針としています。
Q5 何歳までできますか?
年齢だけで決まるものではありません。成人では、歯周組織の状態や残っている歯、被せ物、インプラントなどを確認し、矯正治療が可能かを判断します。
Q6 治療中は一日何時間マウスピースをつけますか?
原則として1日約22時間の装着が必要です。食事や歯磨きなど必要なときに取り外します。具体的な装着時間については、治療開始時にご説明します。
Q7 痛みはありますか?
新しいマウスピースに交換した直後などに、歯が押されるような痛みや違和感を感じることがあります。通常は時間とともに軽減しますが、強い痛みや異常を感じた場合には確認します。
Q8 矯正が終わったらマウスピースは不要になりますか?
いいえ。動かした歯の後戻りを防ぐため、治療終了後には保定が必要です。特に破折歯を経験された患者さんでは、その後も噛み合わせや歯に加わる力を定期的に確認していくことが大切だと考えています。
Q9 歯ぎしりがあれば、矯正後の保定装置で歯を守れますか?
保定装置と歯ぎしり・食いしばりに対応するための装置は、目的や設計が異なります。そのため、「保定装置を入れていれば歯ぎしり対策にもなる」と一律には考えません。矯正終了後の噛み合わせや歯の状態を確認し、必要に応じて適切な装置を選択します。
Q10 まず相談だけでもできますか?
はい。大切なのは、最初から「矯正する」と決めることではありません。まず、「なぜ歯が割れたのか」「歯並びや噛み合わせが関係している可能性があるのか」「歯を動かすことに意味があるのか」を、JR大崎駅直結のいばた歯科で一緒に考えることから始めます。
破折した一本から、お口全体を見る
【画像:最終図解/破折した歯を残す → なぜ割れたのかを考える → 歯に加わる力を調べる → 必要なら奥歯を避けて歯の位置を整える → 矯正後は保定へ → 噛み合わせと歯を定期的に確認 → ご自身の歯を、できるだけ長く守る】
「歯を残す」の、その先へ。
いばた歯科が目指しているのは、マウスピース矯正をすることそのものではありません。破折した歯を治療して終わるのでもありません。
なぜその歯が割れたのかを考え、改善できる原因があれば改善し、治療した歯だけでなく、残っている歯をこれから長く守っていく。そのための選択肢の一つとして、必要な患者さんにはマウスピース矯正をご提案しています。
【ご相談はこちら】
「自分の場合も矯正が必要なのだろうか?」
まずは現在の歯並び・噛み合わせ・破折した歯の状態を確認することから始めます。
破折歯治療後のマウスピース矯正について、JR大崎駅直結のいばた歯科にご相談ください。